足・脚・肢


 昨日は父親の付き添いで、高尾にある法妙寺城山霊園というところへお墓参りに行った。


たくさんの墓石が立ち並ぶその霊園には、お彼岸の時期だというのに何故かボクたち以外の参拝者は全くおらず、


せいぜい頭に三角形の布のようなものをつけた白い着物姿の幼女が一人、墓石に腰掛けているだけだった。




 ボクが、こんなところで何をしているんだい?と頭に三角形の布のようなものをつけた白い着物姿の幼女に尋ねると、


頭に三角形の布のようなものをつけた白い着物姿の幼女曰く、ただ墓地の間を散歩しているだけだという。


頭に三角形の布のようなものをつけた白い着物姿の幼女は、この霊園の近くに住んでいて、毎日同じ時間にこの墓地へ散歩に出かけるらしい。


ボクはその、頭に三角形の布のようなものをつけた白い着物姿の幼女とスグに意気投合し、


「最近のケータイ電話とデジカメのめまぐるしい進歩」や「芥川龍之介について」、はたまた「WBCの組み合わせシステムの落ち度」や


「近頃はあの世も物騒になってきてる」などの話をして盛り上がった。




 しかし、一時間ほど話をした後、頭に三角形の布のようなものをつけた白い着物姿の幼女は、そろそろ時間だから行かなくっちゃ!と言い残し、


突然、スゥーと何処かに消えていなくなってしまった。


それはまるで、濃ゆく張っていたペトコパークの霧がキレイに晴れていくかの如き様だった。


ボクは、最近の幼女はコンピューターおばあちゃんよりも高性能だなぁと感心しながら、


霧散する頭に三角形の布のようなものをつけた白い着物姿の幼女を眺めていた。




 墓参りを終えての帰り際、寺の住職からお稲荷さんと干瓢巻きを頂いた。


あふれる笑顔を隠しきれない住職の様子から、


WBC第二ラウンド一位決定戦で日本が韓国に完勝した、という事実を容易に推察することができた。


おそらく、歌でもひとつ歌いたいくらいイイ気分だったのだろう。