フリキリ


 先日、大学受験を終えた“元”浪人生の友人R君と、吉祥寺にあるバッティングセンタァへ行った。





 まずボクたちは、どちらが先に打席に立つかをジャンケンで決めることにした。が、そこでいきなり問題が発生した。


ボクが出したパーの手に対し、R君が“少し遅れて”チョキを出したのだ。


これには、普段から温厚で知られているボクも「いまのはどうみても後出
しだろう」とR君を咎めたが、しかし、「絶対に負けない唯一の方法は勝つこと
なのだよ」というワケの分からない理論をR君が繰り出してきた為、ボクはそ
れ以上何も言うことができなかった。




 ということで、先に打席に立つのはR君に決まった。




 R君は、朝家を出るとき自宅の前で、薄紫色のショートヘアーをしたセーラ
ー服の女子高生*1から無言でもらったという、でこぼこの金属バットを持参して
おり、その金属バットで球速140Km/hのストレートを投げるバッティングマ
シーンに対しホームランを量産していた。


ボクは、R君が中学時代部員9人の野球部に所属し、一年生ながら2番サー
ドでレギュラーを張っていたほどの実力者であることを知っていたため、
140Km/hのボールを軽々とホームランにすることについてそれほど驚きも
しなかったけれど、それでも「やはり立派なものだなぁ」と感心しつつR君の綺
麗なバッティングホームを眺めていた。




 結局R君は、投げられた21球全てをホームランにして戻ってきた。




 ボクがR君に労いと賞賛の言葉をかけると、R君は「なぁに、オレが凄いん
じゃなくて、このバットがスゴイんだよ。このバットがまるでブーストチャージが
かかったみたいに勝手に動いて、ボールをホームランにしてくれるんだ」と謙
遜していた。ボクはR君のウソの下手さに、それ以上何も言うことができなか
った。




 R君の後、ボクは球速120Km/hコーナーの打席に入った。しかし120Km/hというあまりの球の速さに一度もバットを振ることができず、


7見逃し三振を喫してしまった。それは全く不甲斐ないことこの上ない醜態だった。穴があったら入りたい気分だった。


それにしても、まさか120Km/hが目にも写らないほどの速さとは思ってもいなかった。




 帰宅途中、自転車に乗りながらなぜ打てなかったかをR君と考えてみると、たぶん中学時代、野球部に所属していなかったからだろうという結論に達した。 

*1:メガネはかけていなかったという