書籍紹介


遠海事件

遠海事件




借りモンの詠坂ー。。。


何だかんだで「LGS」から結構経ってしまった「遠海事件」


うーん、ミステリ専門じゃない自分にはまだ少し早いかなーと、「日常」のロリに対する「helvetica standard」かなーという印象を受けたんだけど、


ネットの解説読んだりしたら、七〜八割はやりたいことと凄さが分かったからまあ理解度及第点と言ったところではないでしょーか。。。


薦められたミステリをボクが読み終えると、友人はいつも「何がやりたいか分かった?」「何が凄いのか理解できた?」と問うてきて、


それに対してボクは快刀乱麻の受け答えを披露するんだけど(本人談)、今回はなんとも歯切れの悪いことしか言えなくて半分くらいしか分かってねーんじゃねぇのと疑われて、これがホントの快刀乱麻1/2でしたーというオチ。。。ヘコー!(古典的)



まず注目すべきは、本書の話が、作家・詠坂雄二が大量殺人犯である佐藤誠をテーマに執筆した“実録犯罪小説”というメタ的なスタイルで進んだところかなー。。。


あらかじめ犯人は佐藤誠と分かっているから、探偵役が(おそらく)ドヤ顔で謎解きするナチュラルなミステリーとは一線を画しており、


主軸はあくまで“大量殺人犯・佐藤誠”ということを際立たせているんじゃなかろーかと。。。


んでんでそんな中メインの話題となってくるのは、“動機の多様性”――犯行の不連続性や“事件”そのものを消し去る完璧な死体処理と証拠隠滅技術で警察の目を掻い潜ってきたチート大量殺人犯である佐藤誠が、遠海事件に於いてのみ、なぜ死体の首を切断したのか?っつー疑問なんだけど、


いやはや、この人はホント“前提”を利用すんのが巧いわー。。。


「LGS」の『お前は吏塚の名探偵。おかしな事件を捜査するのは当然だ』といい、


今回の『大量殺人犯・佐藤誠』といい、黒子くんもビックリのナイスミスディレクション


また先にも言ったけど、“実録犯罪小説”っていう体がこのミスディレを助長してんだよなー、ああ見事也。。。


そして最後の一行と巻末資料で気づくこれまた“予想外のインパクト”がなんとも強烈。。。


予想外に強烈すぎて、これ書くために読み直して初めて気づいたという事実は、お兄さんとキミ達との男の約束だ!って読みの足らねー自分を露呈してみるエキシビジョン(テストではない)






電氣人?の虞

電氣人?の虞




借り物の詠坂三冊目ー。。。


電氣人間のと、と、と……虞!



遠海市にのみ伝わる、ローカルでマイナーな都市伝説『電気人間』は戦時中に軍によって作られ、語ると現れて電気で人を殺すという。。。


今回はそんな『電気人間』を調べようとした人間が次々に、あたかも電気人間に殺されたかのような不審な死を遂げるというちょっぴり怪奇小説テイストな本書。。。



うわーまたメタだー、逃げろーまたメタが来るぞー。。。


と思ったけど今回もメタをラストのオチに利用してるからいいや許そう(敗者の上から目線)


そしてまた“前提”ですよ。前提!前提!前提!圧倒的前提!ですよ。。。


電気人間は『語ると現れる』『人の思考を読む』『導体を流れ抜ける』『旧軍により作られる』『電気で綺麗に人を殺す』


これが今回の前提なんだけど、前二つを考えてみよう。。。


まず『語ると現れる』


これは、本書のすべての章が“電気人間”という言葉が発せられたところから始まっている点で、最後の真相を示唆する伏線の一つとして活かされているわけだ。。。


また、被害者の死ぬ瞬間が、それぞれ急なフェードアウトの形で終わっているのは、電気人間のことを語る人物がその場にいなくなった――そのために電気人間が消えた――ことを表していると考えられる。。。


で何より重要な『人の思考を読む』


これはーあんま書くとメインバレになっちゃうから抑えるけど、このために、“このミスディレ”を仕掛けるためにこの前提を決めたのかーってもう脱帽。。。


都市伝説の民俗学的見地も興味深くて面白かったし、


何より「電氣人間のと、と、と……虞!」というタイトルも真相が明らかになったあと見ると成程と納得できてよく出来ていた。。。






お金物語 (講談社文庫)

お金物語 (講談社文庫)




清水義範で“お金”といえばいつか読んだ「マネー」を思い出すんだけど、以外にも話被ってたのは一つだけだったような……。。。


もう三年も前だから記憶が定かじゃないけれど。。。



今回は、「他人の懐」がとてもとても面白かった。。。


日常に溢れるちょっとしたビジネスの金勘定をすることが趣味である公務員、加藤京平の話。。。


例えば、夏、書き入れ時の海の家(駐車場も経営)は一体いくら儲けているのか?とか。。。


駐車場を一台千円として二十台駐車できるから二万×一日ニ回転と見て=四万、それを六月から八月まで三ヶ月続けるとして三百六十万。。。


そして海の家が提供する食事を平均四百円とした場合、席が二十四で十分で一回転とすると、一時間で二十四×六×四百=五万七千六百円、を八時間続けたとして、一日の売り上げは四十六万円。。。


プラス、海水浴グッズの売り上げを一日に十万(作中より)として考え……。。。


とまあ、この後、加藤京平は原価計算までやって収入利益を出すんだけど、流石に面倒だから割愛。。。


でも、上みたいな金勘定って自分的にはけっこうあるあるで、なんだか読んでると気持ちよくなってくるんだよなー。。。たとえこんな単純な計算じゃなくても。。。


清水義範は時々、こういう日常系四コマのネタになりそうな話を真面目に書いてくるから、侮れないわ。。。






幻惑密室―神麻嗣子の超能力事件簿 (講談社文庫)

幻惑密室―神麻嗣子の超能力事件簿 (講談社文庫)




久っさびさの西澤ー。。。


SFとミステリを合わせたパズラーを得意とする西澤が今回手掛けたのは超能力。。。


その中でも本書は、超能力者問題秘密対策委員会、通称『チョーモンイン』に所属する神麻嗣子を主人公とした(?)超能力事件簿シリーズの第一作目。。。


なんだこれ、推理とか関係なしに読んでるとすげーテンション上がるな。。。


セリフの端々に超能力バトルが展開されそうな雰囲気を感じる。。。いや実際バトルなんて一切してないんだけど。。。


今回フィーチャーされる超能力は、超催眠、またの名をハイヒップと言い「ここにリンゴがあるよ」って言われただけでそう見えちゃう、早い話幻術能力者のこと。。。


事件自体は「家から出られなくなるよ」ってハイヒップをかけられた男女が家に閉じ込められて、そうこうしてるうち殺人事件がーという単純な塩梅なんだけど、


そこは西澤保彦、ハイヒップに色々制約をつけてくるわけですよ。。。ハイヒップは他人を通じて伝染するとか、伝染するにつれて暗示に掛かっている時間が短くなるとか。。。


それにハイヒップをかけるためには、実際口に出して喋らなきゃいけないから、一々読者をセリフに集中させるには良い手かも。。。


「あ、この言葉、今ハイヒップかけたんじゃね」って。。。主人公一人称視点の漫画でやったら映えそう。。。


あとはー、男女の心の機微みたいなのが動機になってて、ちょいサスペンス臭がしたことかなー。。。


西澤ってけっこう歪な恋愛模様が好きだし、これ然り、瞬間移動死体然り、複製症候群然り。。。


なんか本人にトラウマでもあるとかだったら、面白いなー。。。






実況中死―神麻嗣子の超能力事件簿 (講談社文庫)

実況中死―神麻嗣子の超能力事件簿 (講談社文庫)




西澤のチョーモンインしりーず第二作目。。。


ある特定の他人が見ている光景が、何かのきっかけにより、一時的に別人の頭の中に流れ込んでくる――今回取り挙げられる超能力はそんなテレパシーの一種である、その名も“パス”!


ではかのような状況下で解かれるべき謎とは何なのか。


まず一つ目が、ストーカー行為や殺人を行う人物、即ちパスを発している超能力(作中では“ボディ”と呼ばれる)は一体誰なのか? という点。。。


そして彼が次に狙っているのは誰で、果たしてどういった理由で、そして何のために、という点がそこに加わっている。。。


所謂、フーダニット、伝統的な本格ミステリ形式の踏襲である。。。




友人的にはシリーズ中、最も出来の良いという本書。。。


けど自分的にはなー、あまり。。。




なんか真相が後付けなんだよなー。。。全体的に。。。


あとコナンっぽい力技加減。。。


雷に打たれて記憶喪失だとか、間違えて殺したとか、殺す気はなかったけど死んじゃったとか、。。。


巻末の解説で真中耕平氏は、西澤作品の登場人物に於ける「記憶の不確かさ」について『「記憶の不確かさ」さえも一つの可能性に入れて推理の俎上に乗せ、そこから華麗なるロジックを紡ぎ出している』と述べているけど、


「記憶の不確かさ」なんて殆ど議論に挙がってないじゃーん。。。最後の真相解明のときに出てきただけじゃーん。。。


しかもここまでくるともう「不確かさ」とか「懐疑」というより障害だよ。。。「やられた……」より「分かるわけない……」だよ。。。


同じく「記憶の不確かさ」を扱った「神のロジック 人のマジック」は随所に伏線張りまくりで巧かったんだけどなー。。。


ただ、作者がおそらく自分を置き換えているであろうミステリ作家の主人公に、途中でネタバレを言わせてるあたりは、詠坂の「電気人間〜」っぽくて楽しくなった。。。





生ける屍の死 (創元推理文庫)

生ける屍の死 (創元推理文庫)




『なんてこった。こんなひどい事件があるもんか。生きてる連中と死んだ連中の思惑が無茶苦茶に絡まり合い、しかも、○○も、○○○も、○○○も、それに○○まで死人だったときてる。……俺は自分が生きてることがすごく惨めに思えてきた』





死者が蘇ることが前提の世界で繰り広げられる殺人に一体何の意味が……。。。



凄いなこれ……。。。今まで友人に薦められて読んだミステリの中では「蛍」とワンツーを争うレベルだ……。。。


しかもデビュー作って……。。。まさか山口雅也は一度老衰で死んで人生経験積んだあと、防腐処理とエンバーミング施されて蘇ったんじゃねーの?



“死者”を骨の髄まで余すことなくしゃぶり尽くした、圧倒的高密度のロジックと真相は圧巻の一言。。。


友人とネタバレありの議論をするから、ここで深く語るのはおあずけとして、


ただ「読んでみろ」って言われて読み始めても、600ページ余裕で最後まで読めちゃう傑作だった、と書いておこうと思う。。。