GIF怖い

暇を持てあました若者数名がメッセに集まり、それぞれネットで嫌いなもの、怖いものを言い合っていました。



ID:hamujiro 「おれはグロ画像が怖い。URLを開いた先が人間の血肉飛び散るグロ画像だったら、その日の飯の一切が喉を通らなくなっちまう」


ID:marumoriVIP 「おれはニコ厨が嫌い。奴ら場をわきまえるって事を知りやしねぇから」


ID:fujianasan 「おれはtanasinnのAAだ。あれを見ると心が不安定になって何もしたくなくなるぜ」


ID:Domino.Y 「おれは萌え豚だな。あいつら、おれがちょっとアニメdisっただけでブヒブヒ文句言いやがって。気持ち悪いったらありゃしない」


ID:tankon 「おれは蓮コラかな。小さな穴が密集してるってのがどうも生理的に受け付けん」



次々と自らの嫌いなもの、怖いものを披露する若者達。しかしそんな中で一人だけ黙っている者がいました。




ID:marumoriVIP 「おいID:matsuさんよぉ、あんたにはネットで嫌いなものとか怖いものはないのかい?」


ID:matsu 「嫌いなものや怖いもの……だと……? おれには一切無いな、生憎」




強気な発言をするID:matsuさん。しかし他の若者達は訝しります。



ID:hamujiro 「本当かい? じゃあ、あんたはグロ画像も怖くないし、ニコ厨も嫌いじゃないってことか」


ID:matsu 「そんなもん全然どうってことないね」



そう切り捨てるとID:matsuさんは一気に畳み掛けました。




ID:matsu 「グロ画像だぁ? あんなもん加工して照栄コラに使ってやらぁ!」


ID:matsu 「ニコ厨だぁ? あんな奴らガキばっかだから無視しときゃあ良いんだよ、何か見たけりゃ「ようつべ」で済ますぜ俺は!」


ID:matsu 「tanasinnのAAだぁ? ドラえもんのパクリじゃねぇか。キチガイに成り切れない奴が作ったもんの典型だ!」


ID:matsu 「萌え豚だぁ? おれならもっとdisって怒らせて、全員煮豚にしてやるぜ!」


ID:matsu 「蓮コラだぁ? 擬人化しておれがオカズに使ってやるよ!」



若者達が挙げた嫌いなもの、怖いものを次々と論破してくID:matsuさんでしたが、突然ふと息巻くのを止め無口になってしまいました。



ID:tankon 「どうしたんだい? 急に黙り込んで」


ID:matsu 「あー、いや。おれにもあった」


ID:fujianasan 「何がだい?」



ID:matsu 「ネットで怖いものだよ」



ID:Domino.Y 「おーそりゃいい。言ってみろよ」




怖いもの知らずかと思われたID:matsuさんにも怖いものがあると知って若者達は興味深々です。が、ID:matsuさんからは思いもよらぬ言葉が発せられたのです。




ID:matsu 「おれは……GIFが怖い」



ID:tankon 「は? GIFって…………あのGIF動画とかのGIFのことかい?」


ID:matsu 「そうだよ。おれはあれが怖くて怖くてね。ああ思い出しただけで気持ち悪くなる」


ID:hamujiro 「それはおれも分かるな。ビックリGIFとか、画像を眺めてたら突然恐怖画像に切り替わったりして。おれはあれで一度コーヒー噴いてぶっ魂消たことがある」


ID:matsu 「全然ちげぇよ」


ID:hamujiro 「えっ? と言うと?」


ID:matsu 「おれが怖いって言ってるのは、あんな子供騙しじゃなくて……GIFアニメだよ。一枚の画像の中でキャラクターが絶えず一連の行動を取り続けるGIFアニメが、おれは大の苦手なんだ」




ID:marumoriVIP 「イマイチ話が見えないな。詳しく話してみろよ」



ID:matsu 「ちっ、しゃあねーなー」



若者達に促されて、ID:matsuさんは渋々ながらGIFアニメを恐れる理由を語り始めました。





ID:matsu 「おれが怖いのはGIFアニメの永続性なんだよ」


ID:matsu 「先にも言ったがGIFアニメっつーのは一つの枠の中で動画化されたキャラクターが絶えず同じ行動をリプレイし続けるもんだろ」


ID:matsu 「けどよ、その行動のリプレイってのは一体ドコからドコまでの範囲が有効なんだ?」


ID:matsu 「例えば、おれが今このサイトで色々なGIFアニメを見たとする。上から順番にスクロールしていって見ていくわけだ。そうすると当然、上の方のGIFアニメは順々にブラウザ画面から消えるよな。当然だ。下へ下へスクロールしていくんだから」


ID:matsu 「しかしそこでおれには一つの疑問が湧く。サイトを下方へスクロールすることでブラウザ上から見えなくなったGIFアニメのキャラクターたちは、それでも絶えず動き続けているのかということだ」


ID:matsu 「まあこの疑問に関してはYESと言えるだろう。というのもブラウザ画面を上方に戻すとGIFアニメのキャラクターたちはちゃんとおれが見た動画の続きを演じてるからだ。奴らはおれがブラウザ上で見ていないときも動いている。これは決定事項だ」


ID:matsu 「では、もう少し範囲を広くしたらどうだろう。おれがこのウェブページを閉じたとき、いやおれだけじゃない。世界中の人間がこのページを開いていないとき、GIFアニメーション化された彼らはそれでも尚、動き続けているのだろうか」



ID:matsu 「答えは『わからない』だ。ウェブページを開いていなければ動いているかは分からないからな。もっと広げてみよう。例えば一切の文明を無傷で残したまま人類が滅亡してしまったとき。誰一人としてウェブページは愚かパソコンを起動すらしなくなった世界に於いて、電子の海で彼らはひたすらに演技を続けているのだろうか。その答えは……」


ID:matsu 「『わからない』だ」


ID:matsu 「例えこの世に人の子の存在が絶無だったとしても、もしかしたら彼らは、外界の変化など何一つ意に介すことなく、四方形の檻の中で我々人間に指示されたルーティンを淡々とこなし続けているかもしれない」




ID:matsu 「そう思うとわたしは堪らなくGIFアニメの存在が恐ろしくなり、同時に荒廃した寂しさに襲われるのだ」





ID:matsu 「以上が、おれがGIFアニメを恐れるおよその理由だ。まあお前らの頭には高尚過ぎて理解できないだろうがな」




一息で捲くし立てたID:matsuさんは最後にそう締めると、「長々とGIFアニメの話をして具合が悪くなった。少し横になって30分後また戻ってくる」


と言い残して一旦その場から去りました。残された若者達は困惑の色が隠せません。



ID:fujianasan 「何て言うか……すごい話だったな。荒廃した寂しさがどうとか……」


ID:Domino.Y 「ああ、正直話を聞いてもよく分からないが、まあ気分が悪くなったということは本当に怖くて嫌いなんだろうな」



ID:ID:hamujiro 「確かに。しかし最後の一言は腹が立つな。あれじゃ、まるでおれたちの頭が低俗みたいな言われ様じゃないか」


ID:tankon 「そうだそうだ。あいつはいつも一言多いんだよ」



議論の話題がGIFからID:matsuさんへの悪口に変わり始めた若者達。そんな中一人の若者がある提案を起こしました。



ID:marumoriVIP 「なぁみんな、あいつは気に食わないから、GIFアニメ攻めにして脅かしてやるっていうのはどうだい?」


ID:tankon 「脅かすって……どうやって?」


ID:Domino.Y 「そうだな……おれたちとの連絡用メールボックスに添付データとして送りつけるのはどうだ。メールを開いたらGIFアニメがサムネで表示されるだろ」


ID:fujianasan 「それは良い案だな。おれもあいつに一泡吹かせてやりたいと思っていたところだ」


ID:hamujiro 「よし!そうと決まれば早速GIFアニメを大量に集めてあいつのメールアドレスに送信してやろう!」



………………

…………

……



それから10分後。若者達は銘銘、様々なGIFアニメを集めました。



ID:hamujiro 「こっちは準備万端だぜ」


ID:marumoriVIP 「おれもOKだ」


ID:tankon 「おれも集めたんだけど、これほとんど萌え系のGIFアニメしかないぞ。大丈夫なのか」


ID:fujianasan 「問題ないだろ。あいつはGIFアニメの根源みたいなもんが怖いって言ってたんだし」


ID:Domino.Y 「確かにな。おれのもほとんど萌え系だし大丈夫だろう」



ID:hamujiro 「よし、それじゃあ今からみんなで一緒に送信しようじゃないか。いくぞ、せーのっ」




ID:mamujiroさんの掛け声と共に5人の若者が同時に送信ボタンをクリックし、ID:matsuさんのメールボックスへ5通のメールが送信されました。




ID:fujianasan 「これで完了だな。あとはあいつが戻ってきてから……」


ID:tankon 「しかしちょっと待て。あいつが戻ってきてこのログを見返したら、おれたちの謀はすぐにバレてしまうんじゃないか」


ID:marumoriVIP 「いやその点は問題ない。あいつはログを見ない奴だからな。その証拠に途中退席から戻って来たときの第一声はいつも『今北産業』だw」


ID:Domino.Y 「そういうこと。だから今おれたちがするべきは、どうでもいい雑談をして早くこのログを遠くに流してしまうことだな」


ID:hamujiro 「そうと決まれば早速“雑談”を始めようじゃないか。内容はそうだな……』


ID:hamujiro 「『好きなまんじゅうについて』 なんてどうだ……?」



………………


…………


……





若者達がメールを送信してから十数分が経過し、ようやく待ちに待った時がやってきました。ID:matsuさんが戻ってきたのです。




ID:matsu 「今北産業


ID:marumoriVIP 「乙。三行じゃないが、今は各々好きなまんじゅうについて語ってる」


ID:fujianasan 「スライムまん好きのおれが乙」


ID:tankon 「乙。スライムまんとかネタも良いトコ。至高はピザまん


ID:Domino.Y 「乙だ。ファミマの豚角煮まんが最強だといってるのにこいつら聞きやがらねぇ」




若者達の対応に不自然さはありません。しかしどのタイミングでID:matsuさんにメールの確認を促すのか、彼らの間に緊張が走ります。そんな中とうとう若者の一人が口火を切りました。




ID:hamujiro 「乙。いきなりで悪いがID:matsuさん。メールは見たか?」


ID:matsu 「メール? いや見ていない。なんについてだ?」


ID:fujianasan「おまえさんがいない間に、オフ会をやらないかって流れになったんだよ。そのことに関する内容のメールをおれたちが送ったんだ」


ID:tankon 「ID:matsuさんが戻ってきたらみんなで話をしようと思ってたんだ」


ID:matsu 「なるほど。そういうことか。ちょっと待ってろ。今確認してくる」




このときの若者達の顔は、おそらく全員一致でニヤリと嫌らしい笑いを浮かべていたことでしょう。数十秒後、ROMに徹していた若者達の目に、期待通りの反応が飛び込んできました。



ID:matsu 「て、てめぇら全員ふざけんじゃねぇ!」


ID:matsu 「こ、こんなことして許さねぇぞ!」


ID:matsu 「な、なにがオフ会についてだ! 騙しやがって!」


ID:matsu 「お、おれ、おれがGIFアニメをどれだけ怖いか説明したばっかりだろ!!」



ID:matsuさんの取り乱し様は尋常じゃありません。泣きながら打鍵している姿が目に浮かぶようです。



ID:matsu 「あぁ、息がぁっ……! このGIFアニメが……!! ちくしょう! GIF怖い、GIF怖い」


ID:matsu 「うぐっ! また気持ち悪くなってきやがった!」


ID:matsu 「てめこのGふぃ、萌えだめcぇああじええああいいううぎふぃこうぃあい、亜qwせdrftgyふじこlpdかいあhふぃあhf」




段々と支離滅裂、意味不明な文章になっていくID:matsuさんの書き込みを見て若者達は大満足です。しかし時間が経つにつれて徐々に妙なことに気づき始めました。




ID:matsu 「ひぃ! このメールにもこんな萌え、じゃなくて怖いGIFアニメがー。 ブヒィ!じゃなくてうげぇ! 胸焼けがするぜ……!」


ID:matsu 「こっちにはニーハイ幼女のGIFアニメ! 良、じゃなくて苦しー。ああ!ちっくしょうGIF怖いGIF怖い……ハァハァ」


ID:matsu 「全くこんなことしておまえらは、最こ、最低の奴らだよ! 全くとんでもない奴らですよ。ああ、GIF怖いGIF怖いハァハァ(顔)」




ID:Domino.Y 「なんかさっきからこいつの言ってることおかしくないか?」


ID:marumoriVIP 「確かに。『GIF怖い』と言っておきながら、まるで萌えGIFアニメに興奮して喜んでいるように見える」


ID:tankon 「こいつまさか……」


ID:matsu 「よ、喜んでなんかいねぇよ!興奮してなんかいねぇよ! お、こっちの子も良い、じゃなくてけしからん、この太ももが! ああ、GIF怖い GIF怖い」


ID:hamujiro 「いや、この反応は明らかにおかしい! おい!ID:matsu! おまえ本当にGIFアニメが怖いと思ってるのか!?」



若者たちはとうとう我慢ならなくなってID:matsuさんに詰め寄りました。すると数十秒経ってこんな衝撃的な書き込みがされたのです。



ID:matsu 「わたしはID:matsuの妹です! さっきから兄はみなさんから送られてきたGIFアニメを見てズボンを降ろす勢いで興奮しています! 兄がGFIアニメを怖いなんて嘘っぱちです!みなさん騙されないでください! 彼はGIFアニメも萌えアニメも大好きなただのキモオタなんです!」





これを見た若者たちは怒ることも忘れて、パソコンモニターの前で全身の力がフニャフニャと抜けていくのを感じました。自分たちはただキモオタに踊らされていただけだったんだと。



…………

……


誰もが掛ける言葉を失いメッセージラインには暫し沈黙が流れていましたが、とうとう若者の一人が意を決してID:matsuさんにもう一度“あの質問”を繰り出しました。



ID:fujianasan 「もう良いよ。もう怒ってないから。その代わり今度こそ教えておくれ。ID:matsuさん、あんた本当はなにが怖いんだい?」



それに対しID:matsuさんは悪びれもせず、こう答えました。



ID:matsu 「チッ、仕様がねーなぁ。本当のことを教えてやるよ」










ID:matsu 「おれが怖いのは…………二次エロ画像の快楽主義とそれに付随する人間の生態学的危険性なんだ――」




以上、お後が宜しいようで。





※筆者はメッセというモノの経験が一切ございません。それ故に本文章のメッセ描写は、全て筆者の都合の良い創造で書かれています。ご了承ください。