三月に読んだ書籍紹介

言壺 (ハヤカワ文庫JA)

言壺 (ハヤカワ文庫JA)


万能著述支援マシン“ワーカム”を使って小説を書くようになった未来、匂いに言語情報を込めた未来、個人が所有するポットという植木鉢のようなもので言葉を育てる未来etc……。


様々な言語の未来を描いた連作短編集。


サブタイトルが全て『○文』となっており、現代のLINEによる会話なんかも『線文』だか『連文』なんていうタイトルで載りそうな感じ。



1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 1


1Q84 BOOK 2

1Q84 BOOK 2


1Q84 BOOK 3

1Q84 BOOK 3


先月から引き継いだ『言壺』を今月の頭に読み終わってから、この一ヶ月家ではずっと本作『1Q84』を読んでいた。


2009年5月に刊行されてから6年、いつか読もういつか読もうと思いながらようやく「今このタイミングしかない」と決心して図書館から借り出し約一月かけてbook1,2,3を読みきった。


村上春樹に関しては今まで短編は数多く読んできたけど長編は初めてってことで、そういう意味でも特に多くの人が読んで刊行当時社会現象にまでなったこの『1Q84』を自分の初長編作品に選んだわけだけど……。


これが本当に社会現象になったあの『1Q84』なのだろうか?


正直村上春樹の作品って個人的に言ってしまえばけっこう退屈なところがあって(意味が分からないとは言わないでおく)、わりと取っ付き難い作家だと思うし、だからこそその文章を好きな人をハルキストとか区別して呼んでるわけで。


けど本作は社会現象になった(社会現象になったよね?) なったということはハルキスト以外の人、ともすれば普段から本なんてまったく読まない人にもウケたと考えるのが妥当であり、その内容は今までの退屈な内容とは打って変わって物語の起伏に富んだ万人受けするエンターテイメント作品であると推測するのが自然ではないだろうか。


リーダーの暗殺に成功するも坊主頭とポニーテールに追い詰められ絶体絶命の青豆、そこにふかえりと共に颯爽と助太刀に現れる天吾。

「天吾くん!」

「青豆」 「1984年から、君を助けに来た」


という劇熱展開があって然るべきではないだろうか。


それがなんだろう、セックスにリトルピープルに空気さなぎにセックスって。みんな本当にこの作品を読んだのだろうか。


そもそもこの作品は本当にこの世界で『空気さなぎ』の如く大ベストセラーになったのだろうか。


今の僕が住むこの世界は本当に2015なのだろうか。


もしかしたら『狐独のグルメ』などというくだらない企画でいつもとは違う人のいない路地裏のうどん屋に入ってる間に、201豪の世界に迷い込んでしまったのではないだろうか。


そう思った僕はすぐに近くの窓を開け夜空を仰いだ。


そこには怪しく光を照らす月がなんと――。



透明人間 (岩波文庫)

透明人間 (岩波文庫)


古典もしくは海外のSF読んでると、SFがちゃんとサイエンスフィクションをしているなと感じることが多々ある。


「透明人間になったのは“透明人間になる薬”を飲んだから」で終わるのが『すこし不思議』だとすれば、本作のように「透明人間になったのは“透明人間になる薬”を飲んで、血液の赤い色素や毛髪の黒い色素など人体の色素を変化させ、空気と同じ屈折率にしたからである」だとサイエンスフィクションになる。


まあ確かに透き通る物体は同じ屈折率の物の中では見えなくなるっつーのは小中学生レベルの物理なんだけど、説得力というか単純に読んでてワクワクするなーと思う。


市内の図書館で今話題の(?)ビブリオバトルを開催するということでわざわざ2ヶ月前くらいに予約を入れて観戦をしてきた。


入場過多を見越した予約制とはいえ、利用者の少ない分館の会議室でやるということでそれほど人は集まらないだろうと開始時間ギリギリに行ったら、ほとんどの席が埋まっていて結局一番前の列の真ん中、つまり発表者の目の前で見るハメに。やはりビブリオバトルは今人気のコンテンツなのか。


しかし肝心の参加者の数は観戦者のソレに反してわずか8人とちょっぴり少なめなご様子。入室の際に貰ったプログラムを見ると発表にばっちり2時間取ってるけど、1人10分としてもけっこう余るっぽい。


しかもその参加者の年齢層がまた、8人中7人がオジサンオバサン〜お年寄りで20代以下は制服を着た高校生の男の子ただ1人という按配。


僕がビブリオバトルの話題を見かけるのはほとんど読売新聞上で全国大会の記事が載ったときだけなんだけど、その大会の主役が高校生の男女なもんだから、ビブリオバトルの需要は若い人にあって、今回のバトルも割と市内の高校生なんかが無双するもんだと思ってた。


まあ僕が図書館のカウンターに観戦申し込みをしたとき館員のおねーさんに「参加の方はいかがですかー?」とか「若い子に出てもらいたいんですよねー」とかさんざん言われたから、今思えばそういうことだったんだろーなーと。ちなみにおねーさんには「見るの初めてなんで、今回ので流れ掴んで次回って感じっすねー」と答えておいた。


ということで参加者8人(ほぼジジババ)を前半4人に休憩挟んで後半4人という風に分けてバトルが始まったんだけど、ここでビブリオバトルの簡単なルールを紹介しておこう。





ルールその1:

発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。


ルールその2:

順番に1人5分間で本を紹介する。


ルールその3:

それぞれの発表の後に、参加者全員でその発表に関するディスカッションを2〜3分行う。


ルールその4:

すべての発表が終了したあとに「どの本が一番読みたくなった?」を基準とした投票を参加者全員1票で行い、最多票を集めたものを『チャンプ本』とする。




ざっとこんな感じ。今回も発表は5分でディスカッションが2分だったか。チャンプ本は挙手集計で前半と後半の4冊からそれぞれ1冊ずつ出す形式だった。



前半の4冊


朗読者 (新潮クレスト・ブックス)

朗読者 (新潮クレスト・ブックス)


本屋会議

本屋会議


走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)

走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)


始祖鳥記 (小学館文庫)

始祖鳥記 (小学館文庫)






後半の4冊


学問のすすめ 現代語訳 (ちくま新書)

学問のすすめ 現代語訳 (ちくま新書)


野川

野川






初めての観戦だったからとりあえず上に参加者たちの持ってきた武器(紹介本)を挙げつつ全体的な印象を述べるなら、まず見て分かるとおり小説を紹介している人が8人中3人しかおらず(内容はリンク参照)、僕が思ってたより少なかった。


書評といえばすぐ小説と決め付けるのは悪い癖だとは思うけど、新聞紙上の全国大会の記事見ると辻村深月とかで入賞してる人もいたからみんな自分の好きな(高火力な)武器をガンガン繰り出してくるのかと期待してたら、どちらかと言えば“戦いやすそうな武器”を持ってきたという印象が強かった。


あとこれは発表を聴いてて特に思ったことでもあるんだけど、何かみんな“訴えかけたいこと”みたいなのを挙げて綺麗にまとめようとしてる様子が見受けられた。


唯一の高校生(ビブリオバトル経験者)も『爆笑問題と考える〜』とか学生らしいっちゃらしいんだけど、お利口さんというか、個人的には若者の感性全開バリバリーでラノベとか紹介してくれたら面白かったのに。


ああ、でも『始祖鳥記』を紹介した人は時代小説が得意分野で本作についても著者から内容までかなり熱く語ってた。


結果チャンプ本に選ばれたのはこの『始祖鳥記』と『折口信夫 魂の古代学』だったんだけど、前者に関して言えばやっぱり自分の好きとか得意な本を武器に攻めの姿勢で戦うのが良かったのかも知れないし、後者に関しても発表者のオジサンはこの折口信夫って人の考え方が昔から好きらしく、発表も本の内容についてというよりは前提となる折口信夫の研究とか思想について語ってて、観戦者の興味もそこに集中していたように見受けられた。あとこのオジサン、「本書はB6版ですでに持ってたんだけど文庫版の表紙が良くていわゆる“ジャケ買い”をしました」とか若者言葉使って笑いを獲ってた。


今回初めてビブリオバトルというものを見たけど、やはりというか、発表者の年齢層が高いとどうしても発表に熱が足りないから“バトル”という印象が薄れるし、チャンプ本狙うなら観客の年齢層なんかも考慮しなきゃで色々一筋縄ではいかないのかもしれない。いっそ作者縛りとかでやったら人は集まらないかもしれないけど剣と剣のぶつかり合いが見れてめっちゃ面白そう。


最近はこうやって定期的に市立図書館でビブリオバトルを開催している所が多いらしく、僕も4月になって新しい環境に身を置くようになったら、大人が嗜む休日の知的趣味として始めてみるのも楽しいかもしれない。



二月に読んだ書籍紹介

ビブリオバトルを楽しもう―ゲームで広がる読書の輪

ビブリオバトルを楽しもう―ゲームで広がる読書の輪


ビブリオバトルのルール


その1:発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。


その2:順番に1人5分間で本を紹介する。


その3:それぞれの発表の後に、参加者全員でその発表に関するディスカッションを2〜3分行う。


その4:すべての発表が終了したあとに「どの本が一番読みたくなった?」を基準とした投票を参加者全員1票で行い、最多票を集めたものを『チャンプ本』とする。



宝島 (新潮文庫)

宝島 (新潮文庫)


タイトルは有名中の有名だけど読んだことがあるかと問われればみんなどうだろう。


これの初版本は1883年なんだけど、話の流れというか展開というか物語のキッカケなんかは現代の作品におけるテンプレートの塊みたいな感じで、物語作る人には参考になったりするのかなーとか漠然と思った。


宝島といえば海賊で、海賊といえば今はやっぱりワンピースで尾田栄一郎も当然本作を読んでると思うんだけど、彼が「一番海賊らしい海賊」と言っていた黒ひげ海賊団は本作における裏切り者のシルヴァー一味を参考にしてるのかもしれない。どっちも女っ気ないしね。



六月の夜と昼のあわいに (朝日文庫)

六月の夜と昼のあわいに (朝日文庫)


10の絵画をイメージして書かれた短編集。


『窯変・田久保順子』が僕の大っ好きなタイプのバッドエンドで最高だった。


ちょっとしたキッカケ一つで劣勢から大逆転できる力はあるんだけど、そのちょっとしたキッカケが訪れず惨めに終わってく、さながら舞踏会に行くことすら叶わず一生奴隷としてこき使われるシンデレラのような。


清清しいくらい惨めなバッドエンドで性的興奮すら覚えた。

一月に読んだ書籍紹介


覚えているのだけ所感など。




ひとにぎりの異形  異形コレクション (光文社文庫)

ひとにぎりの異形 異形コレクション (光文社文庫)


去年からの引継ぎ。本作はショートショートを題材にした異形コレクションシリーズ。


星新一をネタにしてる人が何人かいて面白かった。




夜眠りにつくと自分がアリスインワンダーランドの登場人物になってしまうという共通の夢を見る人たちの間で巻き起こる殺人事件。

夢の世界(アリスの世界)の登場人物は現実世界の人間の分身みたいな設定でアリスの世界での殺人が現実世界の死とリンクしてて……、というお話。

まず何人か死んで主人公がアリス世界の登場人物に対するリアル世界の人間の配役を明確にしようみたいな話になったところで大体結末というかミステリの種が読めてしまう感じ。

けど締めはファンタジーとしてなぁなぁで終わらせるのかと思ったら唐突にSF要素ぶっこンできて良かった。



モーパッサン短篇集 (ちくま文庫)

モーパッサン短篇集 (ちくま文庫)


全体的に人生を後悔してる人たちのお話。


これは20代の僕が今読んでも仕方が無い気がする。


教訓にはなるけど共感はできないかな。



鷲尾須美は勇者である

鷲尾須美は勇者である


買うまでにズイブン手間取らせやがった。


後日談も見たいから生まれて初めてアニメ誌(G's magazine)も買っちゃった。



美麗廃墟 美しく幻想的な廃墟たち

美麗廃墟 美しく幻想的な廃墟たち



高校生のための批評入門 (ちくま学芸文庫)

高校生のための批評入門 (ちくま学芸文庫)


これって作品批評なのかと思ったらそうじゃなくて、for世界とか世の中みたいなスケールの話だった。


物事に対して考えて意見持って発信すればそれは立派な批評ですということが書いてあったような。

今年読んだ書籍紹介


覚えているのだけ所感など。




エンダーのゲーム (ハヤカワ文庫 SF (746))

エンダーのゲーム (ハヤカワ文庫 SF (746))




確かアニメで『魔法科高校の劣等生』がやっていた頃、「俺つえーな主人公が出てくる小説を挙げてけ」みたいなスレで紹介されていたのを見て読んだのだと思う。


ゲームの強さで世界が救えるみたいなオタクの願望ダダ漏れ作品最近増えまくってるから、そういう意味でもこの作品は色々と御目がねにかなうんじゃないでしょうか。







人の脳に寄生して体からフェロモンを発することで自らの種子を人間の体に付着させ移動し色々な星で繁殖する、みたいな種の存続方法が面白かった。







エンド・ゲーム 常野物語 (常野物語)

エンド・ゲーム 常野物語 (常野物語)




常野シリーズはこれで完結なのかな。短編集であった草取りの話とかもっと見たい。


あと三月シリーズも。




猫を抱いて象と泳ぐ

猫を抱いて象と泳ぐ




この作品は来年ワンモアリードしよう。




水族館の殺人

水族館の殺人




アニメオタクが主人公の小説を「読むな」「書くな」「出版(だ)させるな」の否オタ三原則を提唱したい。




小説 中華そば「江ぐち」 (新潮OH!文庫)

小説 中華そば「江ぐち」 (新潮OH!文庫)




筆者である久住昌之氏の行きつけのラーメン屋「江ぐち」の解体新書。店で出されるラーメンはもちろん店内の雰囲気や切り盛りする3人の職人についてなどが、(確か)全て観察という形で記述されている。


久住氏といえばやはり『孤独のグルメ』だが、ゴローちゃんが店内に入ってから見せるあの数々の観察と思案は、実はこのラーメン屋「江ぐち」が原点なのかもしれない。




ラブ・ケミストリー

ラブ・ケミストリー







つぎはぎプラネット (新潮文庫)

つぎはぎプラネット (新潮文庫)




聖なる怠け者の冒険

聖なる怠け者の冒険




七日じゃ映画は撮れません

七日じゃ映画は撮れません




真藤順丈が次に描いた“架空のリアル”は映画でした。『黄昏旅団』と『ゴッドブレス』の書籍化も待ち遠しいなー。




ねじれた部屋 (光文社文庫)

ねじれた部屋 (光文社文庫)




未来いそっぷ (新潮文庫)

未来いそっぷ (新潮文庫)




蟻―ウェルベル・コレクション〈1〉 (角川文庫)

蟻―ウェルベル・コレクション〈1〉 (角川文庫)



蟻が外部刺激によって発するフェロモンを特殊な質量分析機にかけて化学構造を割り出し、それを人間の言葉に当てはめて変換することで蟻との会話を試みようとするSF的ギミックが秀逸だった。


ちなみに蟻についての面白い話として、蟻は死ぬと体からオレイン酸を発し、それを察知したほかの蟻が死体を巣の外へ運ぶんだけど、どぶろっくよろしくある研究者の話では、生きている蟻にオレイン酸をかけたら周りの蟻は生きているにもかかわらずその蟻を巣の外へ運ぼうとする結果が得られたらしいよ。面白いね。



時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫)

時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫)




夜のかくれんぼ (新潮文庫)

夜のかくれんぼ (新潮文庫)




華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)

華氏451度 (ハヤカワ文庫SF)




チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)




チーム・バチスタの栄光(下) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 600)

チーム・バチスタの栄光(下) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 600)




『狐独のグルメ』第2話「東京都文京区東京ドームの社会人価格チーズバーガー」





野球を生で観戦したのは本当に久しぶりだった。


去年大学を卒業し就職をした友人の企業が出場するということで、興味も無いくせに誘われるままに着いていったが、これがなかなかどうして盛り上がる試合だった。


時刻は午後六時、お腹の虫もいい具合に鳴いてるしこのまま自社の勝利に気を良くした友人とどこか呑みに行くかと思っていたのだが、会社の上司から呼び出しを受けた友人は、すまなそうにしながらも俺を置いてそちらの祝勝会へと行ってしまったため、今、俺は一人東京ドームの周りを歩いている。


やっぱり会社だからそういうのはしょうがないんだろうなぁ。


「さて」


すっかり気分は冷めてしまったが、空腹は収まらない。


「仕方ない、どこかめし屋でも探すか」


しかしこの辺りの店だとどこもスーツをきたサラリーマンに占拠されていそうで学生の俺は気が引ける。かと言ってわざわざ駅を移るのも追い出されたようで滑稽だ。この辺りであまりサラリーマンが入らなそうな店は…。


「おっ」







「ここは、ハンバーガーショップか…」


チェーン店のハンバーガーショップはやたらガキ臭くて入れたもんじゃないが、ここならわりと本格的みたいだし、サラリーマンの集団も入ってくることは無いだろう。







いやに高いな…。まあそれだけしっかり作っているということか。


「ここにするか」


「いらっしゃいませー お好きな席どうぞー」


ふぅ、やはり空いているな。


一度吉祥寺のマクドナルドに行ったときはうるさい中高生と子連れの主婦に座席を占拠されていて、おぼんを持ったまま立ち往生してしまったことがあったが、ハンバーガーショップもこれくらい静かだと入りやすい。







「ご注文お決まりになられましたか?」


「あぁはい、えーと、テリヤキ、いやチーズバーガーのAセットで、ドリンクはコーラでお願いします」


「はいかしこまりました。チーズバーガーのAセットにセットドリンクはコーラですね。少々お待ちください」


しかし野球を観戦した後にハンバーガーとポテトとコーラとは中々アメリカンな組み合わせだ。


観戦したのはメジャーでもなければプロ野球でもない、ただの社会人野球だが。


それにしても……。来年はとうとう俺も社会人か。


4年で卒業して就職した友人達は飲み会の度に仕事を辞めたいと愚痴をこぼしているが。


「なんか不安だな」


「おまたせいたしました。チーズバーガーのAセットとドリンクのコーラでございます。ごゆっくりどうぞー」


「ほぅ」







ハンバーガーなどめったに食べないが、これはなんというか、昔食べたチェーン店の安物とは全く別物のような気がする。


中を開いて出すのも見栄えがよくて食欲をそそる。


「じゃあさっそく」


「あぐ、もぐ、もぐ、もぐ」


うん、これはおいしい。パンもフカフカしているし、とけたチーズの乗った肉厚のハンバーグがトマトの酸味とよく合っている。










さてコーラはどうかな。


コーラを飲むなんていつ以来だろう。子供の頃は「骨や歯が溶ける」とか言われて親が禁止してたっけか。


「ごく ごく ごく   ふぅ」







そうそう、このいかにもカフェインに水と大量の砂糖をぶっこみましたという感じの体に悪そうな味。


アハハハ… 子供に飲ませなくて正解だな。


「もぐ もぐ うん、うまいうまい」


「ポテトはこういう感じか。個人的にはくし切りっぽくなってるほうが好きなんだけど」


「むしゃ むしゃ ごく ごく」



……………
………



「ふぅ 食べた…」


ハンバーガーってこんなに美味いものだったのか…。


「すいませーん お会計お願いします」


「はい チーズバーガーのAセットがお一つで1180円でございます」


やはり学生の俺には少し高かったか…。


もしかしたらこの値段設定は今日ここに試合を見に来た社会人たちの為のものだったのかもしれないな。


だとしたら俺は…。


そういうことなら俺も今度はスーツを着て、社会人としてこの店でチーズバーガーとコーラを注文してやることにしよう。


まあ、しっかり大学院を卒業できたらの話だが。